ピロリ菌とは?

ピロリ菌(Helicobacter pylori)は胃の粘膜に感染し、慢性的な胃炎を引き起こす細菌です。
長期間感染が続くと、胃粘膜の萎縮や腸上皮化生が進行し、胃潰瘍・十二指腸潰瘍だけでなく胃がんのリスクを高めます。
ピロリ菌感染を早期に発見して除菌することは、胃がん予防の重要な一歩です。ただし、除菌後も、すでに生じた胃粘膜の萎縮の状況などによって、胃がんリスクが残ります。そのため、感染の有無だけでなく、胃粘膜の状態を評価することが大切です。
こんな方はご相談ください
- ピロリ菌検査を受けたことがない
- 健診や人間ドックでピロリ菌陽性と言われた
- 胃のバリウム検査や、胃カメラで、胃の萎縮・慢性胃炎・萎縮性胃炎を指摘された
- 胃潰瘍・十二指腸潰瘍になったことがある
- 家族で胃がんの人がいる
- 以前ピロリ菌を除菌したが、除菌判定を受けていない
- 除菌後に胃カメラを受けていない
- ピロリ菌陰性と言われたが、胃の萎縮を指摘された
「ピロリ菌に感染しているか分からない」「検査結果が本当に正しいのか心配」という方もご相談ください。
ピロリ菌が陽性だった場合の治療
ピロリ菌感染が確認された場合は、原則として除菌治療を行います。
治療法は、これまでの治療歴、抗菌薬への耐性、ペニシリンアレルギーの有無などを考慮して選択します。
日本で一般的に行われる一次除菌の成功率はおおむね80~90%、一次除菌に失敗した場合の二次除菌では、約90~97%程度の成功率が期待されます。ただし、治療法や薬剤耐性の状況によって異なります。
一次・二次除菌で成功しなかった場合にも、三次除菌やその後の救済治療があります。
三次除菌からは自費診療となりますが、ボノプラザン+アモキシシリン+シタフロキサシン(VAS)が推奨されており、約90%の除菌率が報告されています。さらに、三次除菌以降の難治例では、リファブチンを用いた救済治療である、ボノプラザン+アモキシシリン+リファブチン(VAR)も選択肢となります。複数回の除菌失敗例に対して、80~90%前後の高い除菌率が報告されています。
ペニシリンアレルギーがある場合も、ペニシリン系抗菌薬を使用しない治療法を選択できます。こちらも自費診療となりますが、過去の治療歴や抗菌薬の使用状況を確認し、必要に応じて薬剤感受性を考慮して治療方法を検討します。
なお、除菌薬を飲み終えただけでは成功とは判断できません。治療後に尿素呼気試験や便中抗原検査などで除菌判定を行うことが重要です。
「一度で除菌できなかった=もう治療できない」ということではありません。複数の治療選択肢がありますので、除菌に失敗した場合もご相談ください。
ピロリ菌治療の費用
| 内容 | 費用(税込) |
| ピロリ菌除一次菌治療 | 保険診療 |
| ピロリ菌除ニ次菌治療 | 保険診療 |
| ペニシリンアレルギー除菌(VCM) | 22,000円 |
| 三次除菌(VAS) | 22,000円 |
| リファブチンによる救済治療(VAR) | 27,500円 |
| 自費治療後の除菌判定(尿素呼気試験) | 6,600円 |
ピロリ菌と胃がん

日本人を対象とした研究では、ピロリ菌感染者は未感染者と比較して胃がんリスクがおおむね10−20倍程度高いことが報告されています。
一方、除菌によって胃がんリスクは低下しますが、未感染者と同じレベルまで必ず戻るわけではありません。
IARC(国際がん研究機関)/WHOの2026年の報告では、ランダム化比較試験のエビデンスから、H. pyloriの除菌治療により、胃がん発生が約36%、胃がん死亡が約22%減少するとされています。
未感染・現在感染・除菌後は同じではありません
胃がん予防では、次の3つを区別して考えることが重要です。
- 未感染:これまでピロリ菌に感染したことがない状態
- 現在感染:現在もピロリ菌が存在する状態
- 除菌後:現在はピロリ菌が検出されなくても、過去の感染による胃粘膜の萎縮などが残っている状態
つまり、「ピロリ菌が現在陰性」だからといって、必ずしも「胃がんリスクが低い」とは限りません。
特に萎縮性胃炎や腸上皮化生がある場合には、除菌後も定期的な胃内視鏡検査が重要です。
ピロリ菌の感染診断は、一つの検査だけで判断しないことが大切です
ピロリ菌の診断には、血液・尿の抗体検査、尿素呼気試験、便中抗原検査、胃内視鏡による鏡検・迅速ウレアーゼ試験・培養、さらにPCRなどの核酸増幅検査(NAAT)があります。
これらの検査は、それぞれ「現在の感染を調べる」「過去の感染も反映する」「胃粘膜から直接調べる」など特徴が異なり、感度・特異度も同じではありません。
日本ヘリコバクター学会の2024年改訂ガイドラインでも、100%の感度・特異度を持つ検査はなく、正確な診断のため複数の診断法を用いること、検査結果を胃粘膜の内視鏡所見と合わせて判断することが推奨されています。
したがって、検査結果が陽性または陰性であっても、それだけで感染の有無を断定せず、服薬状況、胃粘膜の状態、検査の種類やタイミングなどを含めて総合的に判断することが重要です。特に、検査結果と内視鏡所見が一致しない場合や、胃粘膜の萎縮が強い場合には、別の検査を追加して確認することがあります。
ピロリ菌検査の種類と特徴
| 検査 | 主な検体・方法 | 特徴 | 感度・特異度の目安 ※ |
| 尿素呼気試験(UBT) | 呼気 | 現在感染を評価。除菌判定にも推奨 | 感度約96–100%、特異度 約83–100% |
| 便中抗原検査(SAT) | 便 | 現在感染を評価。除菌判定にも有用 | 製品・方法により異なる。高精度のモノクローナル法ではUBTに近い性能 |
| 血清・尿抗体 | 血液・尿 | 簡便。過去の感染でも陽性が続くことがある | 製品・集団により大きく異なるが、感度86~98.1%、特異度78.0~95% |
| 鏡検 | 胃生検 | 胃粘膜を直接観察 | 感度・特異度は生検部位、菌量などで変動 |
| 迅速ウレアーゼ試験(RUT) | 胃生検 | 胃粘膜中のウレアーゼ活性を検出 | 感度・特異度は生検部位、菌量などで変動 |
| 培養 | 胃生検 | 菌を直接確認。薬剤感受性試験が可能 | 特異度は高いが、感度は検体条件などの影響を受ける |
| PCR・NAAT | 胃液、生検など | 菌のDNA等を検出。薬剤耐性遺伝子の評価にも応用可能 | 方法・検体・キットにより異なる。約95%以上の感度・特異度が報告される方法もある |
2024年改訂ガイドラインでは、血清抗体だけで除菌治療を開始することはせず、内視鏡所見やUBT、便中抗原、RUT、病理、培養、NAATなどを組み合わせて総合的に診断することが推奨されています。
特に国内で広く使われるラテックス法では、検査法によって性能に幅があります。さらに日本ヘリコバクター学会は、例えば一部の血清抗体検査では陰性と判定される3~10 U/mL未満の「陰性高値」領域に、20%弱の感染者が存在することを示しており、この領域では別の検査による確認が推奨されています。
検査結果が陰性でも注意が必要な場合
ピロリ菌検査は、薬剤や胃の状態によって偽陰性になることがあります。
特にプロトンポンプ阻害薬(PPI)やP-CAB(タケキャブ)、抗菌薬などは検査結果に影響することがあります。2024年改訂ガイドラインでは、尿素呼気試験と迅速ウレアーゼ試験は、PPIやP-CABの服用中には信頼性が低下するため注意が必要とされています。
また、強い萎縮性胃炎や胃がんなどでは、胃内のピロリ菌量が少なくなり、検査が陰性となる場合があります。
そのため、「検査が陰性だったから感染歴はない」と単純に判断せず、胃カメラでの所見や過去の検査・除菌歴などを合わせて評価することが重要です。
検査して、感染していれば治療する(Screen-and-Treat)
近年、胃がん予防の考え方として「Screen-and-Treat」が注目されています。これは、ピロリ菌感染を検査で見つけ、感染している人を治療するという考え方です。
重要なのは、「検査して陽性なら除菌して終わり」ではありません。
- 感染を見つける
- 除菌する
- 除菌成功を確認する
- 胃粘膜の状態を評価する
- 必要に応じて定期的に胃カメラを受ける
という一連の流れが、胃がん予防では重要です。
ピロリ菌抗体検査には「グレーゾーン」があります
血液によるピロリ菌抗体検査は、採血だけで調べられる簡便な検査ですが、現在の感染だけを反映する検査ではありません。過去に感染していた場合や、除菌後でも抗体が陽性となることがあります。
また、抗体検査は検査法や使用するキットによって感度・特異度が異なり、特に特異度が十分に高くない検査では、陽性であっても現在感染しているとは限りません。さらに、抗体価には**「陰性高値」と呼ばれる、いわゆるグレーゾーン**があります。検査上は「陰性」と判定されても、カットオフ値に近い抗体価ではピロリ菌感染者が含まれることがあります。日本ヘリコバクター学会では、使用する検査法によっては、この領域に感染者と除菌後の方が混在することが示されています。
そのため、
「抗体陽性=現在感染」
「抗体陰性=未感染」
と、一つの検査結果だけで判断することは適切ではありません。
抗体検査の結果が陽性の場合だけでなく、陰性でもカットオフ値に近い場合や、胃カメラで萎縮性胃炎などの所見がある場合には、尿素呼気試験、便中抗原検査、胃内視鏡下の検査など、別の検査を組み合わせて感染の有無を確認することがあります。 ピロリ菌の感染診断では、検査結果だけでなく、胃内視鏡で確認できる胃粘膜の状態、過去の感染・除菌歴、服用している薬剤などを総合して判断することが重要です。
よくある質問
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ピロリ菌検査が陰性なら安心ですか?
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検査方法によっては偽陰性が生じることがあります。
特に酸をしっかりと抑える胃薬を使用している場合や、強い胃粘膜萎縮がある場合には注意が必要です。検査結果だけでなく、胃粘膜の状態や過去の感染歴も含めて総合的に判断します。
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血液検査が陽性ならピロリ菌に感染していますか?
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血液の抗体検査が陽性でも、現在の感染とは限りません。
抗体は過去の感染でも陽性になることがあります。そのため、現在の感染を確認するためには、尿素呼気試験や便中抗原検査など、別の検査を組み合わせて評価することがあります。
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ピロリ菌陽性と診断されたら、胃カメラは必要ですか?
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ピロリ菌陽性と診断された場合は、除菌治療の前に胃内視鏡検査(胃カメラ)で胃がんの有無や胃粘膜の状態を確認することをおすすめします。
ピロリ菌感染では、胃粘膜に慢性的な炎症が起こり、萎縮や腸上皮化生などの変化が生じることがあります。こうした変化は胃がんのリスクとも関連するため、ピロリ菌を除菌するだけでなく、現在すでに胃がんが存在していないか、胃粘膜にどの程度の変化があるかを確認することが重要です。
胃内視鏡では、胃がんの有無だけでなく、萎縮や腸上皮化生などの胃粘膜の状態を直接評価できます。ピロリ菌感染が確認された場合には、除菌治療とあわせて胃内視鏡検査をご検討ください。
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ピロリ菌を除菌したら胃がんの心配はなくなりますか?
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除菌によって胃がんになるリスクと、胃がんで亡くなるリスクが低下しますが、ゼロになるわけではありません。
特に、除菌前から胃粘膜の萎縮や腸上皮化生などの変化が進んでいる場合には、除菌後も胃がんが発生する可能性があります。そのため、除菌後も胃粘膜の状態やこれまでの感染歴を踏まえ、定期的な胃内視鏡検査による経過観察が重要です。
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